自分の身分がわからなかった派遣社員

今から5年前の事です。その当時、私は正社員を目指していて、そのために必須の業界経験を積むために、ある派遣会社に登録をしました。その当時の派遣関連の法律や規則の決まりでは、私の履歴や経歴を一切、相手側に知らせてはいけないことになっており、最終的に私は自分の名前を伝えるだけで採用となりました。

業務内容は、ある公的機関で大規模な記録の処理を手作業で行う、といったものでした。本当に大規模で、毎日細かく数字をチェックし、転記する作業でした。

大変だった多重派遣

派遣業界では、いわゆる二重派遣は法律で禁止されています。派遣会社から他の派遣会社に派遣されて働く、などという事です。しかし、これは合法的な抜け道があります。 働く側からしたらたまったものではありませんが、その仕組みはこうです。まずどこかの会社Aが業務を入札にかけます。そして別の会社Bが、ある団体なり企業なりの業務を一括して落札します。そして落札した会社はその業務を派遣会社Cに委託します。いわゆる丸投げです。その結果、入札実施会社A→落札会社B→派遣会社C→派遣社員と、仕事が降りてきます。

私は一体誰?

二重派遣を超えた多重派遣と言ってもよいですが、問題はその複雑さだけではありません。自分がどこで働いているのか、という身分の問題です。 その答えは、AからCすべての会社に属している、というのが正解です。 つまり、一つの仕事をしているのに、最大3つの肩書き、名刺を持ち、それぞれに報連相、いわゆる「ほうれんそう」報告、連絡、相談をしないといけない立場だったのです。

煩雑なコミュニケーションと情報の奪い合い

想像してみてください。遅刻や休みの連絡、退社の連絡なども、全てこのAからCに全てしなければいけないことを。しかも、往々にして普段は、このA-C間のやり取りは皆無に近く、違いに全くコミュニケーションがとれていなかったのです。ただ一つ、私が迷宮のような伝言ゲームの中間に立たされたことを除いては。

実際に現場で働いているのは私一人でしたから、私を介してそれら上部の会社群が様々なやり取りをするわけです。その理由は、実は、このA-Cがライバル関係というか、よく言えば協業関係にあったということです。つまり、それぞれがそれぞれの内部情報を必死になって取り合い、それぞれのビジネスに活かそうとしていたからです。 具体的に言えば、A社から私に対して、B社の情報を取ってくることが命令され、B社からはその逆で、いかにA社から重要な情報をとってくるかという事が命令されるなどと言ったことです。それぞれの会社から「お前は一体どちらの立場なんだ!」と怒られますが、さすがに「全部です」とは言えませんでした。(笑)

懇親会は全て出席

入退社歓迎会、忘年会、新年会、その他イベント、派遣会社以外は、全てほぼ強制的に参加となりました。A社の会、B社の会、当然ながらそれぞれ全くメンバーが異なっていました。自分の中では、仕事をしていく上で、守秘義務という部分を過剰に意識していたため、どれも緊張してしまい、とてもリラックスは出来ませんでした。

派遣社員として大変だったこと

これは退職後に思い知ったことなのですが、まず履歴書に書くのに非常に苦労したということです。結果としてAからC、合計3社の身分だった事は間違いなかった訳ですから、当然全ての会社名を記載することになります。そうすると、再就職の活動の度に相手の企業へ事情を話さなければならず、その説明に大変苦労しました。 さらに精神的につらかったのは、他の社員さんに比べて給与が格段に少なかったことです。時給から見たら一般的な相場以上ではありましたが、当然ボーナスなどはなく、待遇の違いを思い知らされました。 勤務に関して大変だったこと

派遣会社に関しては、きっちり残業分を派遣先に請求し、毎日、手書きで出勤簿をつけていました。その中で強烈に困ったことは、残業の要求は皆無でしたが、その代りに、それぞれの会社から、早朝の出勤を強制されたことでした。朝起きるのも大変だったのですが、出勤の連絡を複数にしなければならないのと、中途半端な時間に業務が始まったり終わったりした時の端数の計算です。どこがブラックだったかというと、この端数の計算が極めてブラックでした。要は、15分を超えた早出や超過に関しては、計算なし、対して1分の遅刻で一時間の欠勤など。これら全てが契約書に小さな字で記載されていた上に、実際の派遣先の就業規則などもあり、結論として私は3つの会社の、3つの異なる就業規則に縛られていました。

私はどのように対処し、切り抜けたか

結局、私自身の待遇などのクレームも、誰が実質的に対処し、解決していくのが全く曖昧で、いわゆるたらい回しの状態でした。そのため、日々の仕事は確実にこなしていった上で、ブラックな勤務待遇やよくわからない身分に見切りをつけ、退職し、その業界での職務の経験を買われて他の会社で正社員になることができました。 これは後日談ですが、私の退社後、私の業務は全て自動化され、実質A社内のみで業務処理ができるようになったと新聞報道等で知りました。

私のような多重派遣状態ではなくとも、派遣社員として異なる会社へ派遣された事のある人は、少なからずこのような複雑な仕組みの苦労を分かっていただけるのではないかと思います。ましてやブラックな会社や勤務条件であるならなおさら大変だと思います。